木材腐朽菌の利用方法
 木材を分解して栄養源とする腐朽菌には、主としてリグニン(木質素)を分解する菌と、セルロース(繊維素)を分解する菌とに分けられます。リグニン分解菌による腐朽材は白色腐朽(白腐れ)とよばれ、セルロース分解菌による腐朽材は褐色腐朽(褐色腐れ)とよばれます。
 菌糸ビンに使用されているヒラタケ菌は、腐朽した材(おが粉)の色から主にリグニンを分解する白色腐朽菌であり、発酵マットは作成過程を見なければ何とも言えないのですが、キノコ類、カビ類、バクテリア類等の木材腐朽菌の中から推理すれば、その色から褐色腐朽菌による分解で主にセルロースを分解しているバクテリアと思われます。
 つまり、
菌糸ビンは微生物であるキノコ(菌類)の腐朽、飼育マットはバクテリア(動物)による分解で、菌糸ビン飼育とマット飼育では基本的な考え方が全く違います。

 そこで、リグニンやセルロース等を分解する特性の違う腐朽菌によって作られた、より多くの必要な成分を含んでいる餌を両方食べさせる方が遙かに有利だと言うことを念頭に置いて、一連の流れの中で過程を考え、腐朽材をどのように消化吸収しているかを理解することが必要になります。
 只単に、”大きくなるだろう”と言う思惑だけで、菌糸ビンや飼育マットに、特定の添加物を入れても、幼虫が必要とする成分を効率良く消化吸収して同化できなければ、その効果に疑問が生じます。
 以前、ゴム風船の大きさはゴムの厚さが影響すると言う安易な発想で、外殻の主成分であるキチンの微分末を多量に食べさせたことがありましたが、キチンの抗菌作用かと思われる悪影響が出て大きく育たないことがありました。

 菌糸ビン飼育とマット飼育を比べた場合、食べてからの消化吸収の順序を
総合的に考えると菌糸ビンが勝っていますが、体力も無く、適応能力も低い若齢幼虫には、栄養価だけが高くて菌糸が死んでいる餌を食べさせた方が負担が少なく適しています。要するに、年齢と順序、バクテリアの存在も考慮して、その時期に適した負担の少ない餌を与えれば良いのです。
 もし、初齢幼虫から菌糸ビンで飼育する場合には、
腐朽の進んだ古い菌糸ビンに複数匹入れて飼育する方が、その消化能力をお互いに助け合う事ができるので負担が少なく成ります。
 理由として、同じ菌糸ビンを食べさせているのにもかかわらず、体内でバクテリアを利用して良く育っている幼虫の糞の色は褐色が濃いのに、初齢、2齢で消化能力の低い幼虫の糞の色があまり濃くないのは消化管内における分解に差があるからで、お互いの糞を食べさせることによりバクテリアの移譲を行い体内の状態を改善できると思われるからです。
 
私の意見ですが、初齢から菌糸ビンを使用することは絶対に避けるべきです。

 堆肥だけを食べさせて飼育しているカブトムシに、いろいろな酵素でリグニンを分解し、数多くの合成物質を含んでいる白色腐朽材(菌糸ビンの菌床、シイタケ木等)を食べさせると更に大きく成ると言うことは、堆肥を分解して消化管内で繁殖したバクテリアと、そのバクテリアが作成した物質を消化吸収するだけでは、大きく成長するために必要な養分が不足しており、外部から摂取した白色腐朽材が体内の分解バクテリアの不足分を補ったからです。そこで、
材を食べている幼虫には堆肥の要素を与え、堆肥を食べている幼虫には菌糸の分解成分を与えると言う、双方の不足を補う考え方が生まれます。

 従って、体外から摂取する腐朽材は、キノコの菌糸が出した酵素によって、主にリグニンを分解して数多くの合成物質を含む白色腐朽材が適しています。そして、更に大きくなる為に、私たちが乳酸菌飲料を飲んで腸の調子を整える様に、体外からセルロースを分解する多量のバクテリアを補給してやることは、消化管内に既に存在している分解バクテリアの働きを助けると同時に、
消化管内で増殖したバクテリア等の共生微生物そのモノがタンパク源になる利点があります。

 つまり、リグニンを分解するキノコの菌糸は、幼虫の体内に入れば消化されて死んでしまうが、消化管内のバクテリアは消化管内で生き続け、糞の色から察するにセルロースを分解して繁殖しているからです。このことは、菌類が腐朽していない生のチップを幼虫に食べさせても育つことから、体内で必要な成分を作成しながら繁殖した動物性微生物そのモノが、貴重なタンパク源として消化吸収されていることを確定づけると思います。当然、外部からのタンパク質摂取量が多いに越したことはありませんが、餌の中に最初から多量のタンパク源に成るバクテリアが含まれていて、消化管内で繁殖することは非常に有利な訳です。
 パプアニューギニアの芋しか食べない民族が世界でも有数の筋肉質の民族であり、炭水化物を分解して繁殖する腸内バクテリアその物をタンパク源として消化吸収していると言うことからも理解できると思います。
 更に、身近では、牛や馬等の草食動物もバクテリアを体内で繁殖させてタンパク源としていますし、子供のカバも消化管内バクテリアを受け継ぐ為に親の糞を食べます。
 また、トウモロコシの茎・葉、牧草等を一旦地面に埋めて、しばらく放置した後に掘り出して、牛や馬に与えることもあるそうです。

 以上のことから、只単に栄養価の高い餌を与えることだけにとらわれず、幼虫の体内に於けるバクテリアの繁殖や分解・吸収等を理解することが重要です。

褐色腐朽菌の培養   篩に掛けたマット