新しい腐朽方法の応用(シイタケ)

 山梨のシイタケ農園のご主人に協力をお願いして、直径25cm長さ60cmのクヌギ材やクルミ材等でカワラタケとヒラタケの植菌材を数多く手掛けてきましたが、きのこは好気性の微生物であるが故に材の表面に滞在しようとしてなかなか中に入りません。
 そこで、菌糸を材の中に強制的に腐朽させる方法が必要になり、今までの事例(データー)を整理して方法を思い付きました。

 きのこは、”好気性の微生物である”、”材の中には空気が沢山封じ込められている”という2つの要件がヒントになりました。

 尚、今回開発した方法は、俗に言う”
コロンブスの卵”のようなもので、発想とは身近に有る”たわいもないもの”なのかもしれません。しかし、この考え方は、同じ生態系を持つシイタケ等の栽培に使用できますので、シイタケ業界の革命が起こるかもしれません。

シイタケの採取までの期間を短くする方法

考え方

 シイタケ菌等のキノコは好気性の木材腐朽菌なので、空気の無い所では生きていけないと言うことを利用します。
 実際の方法として、ほだ木外側からの空気を遮断して材内部の空気だけで呼吸させます。
 材内部の水が抜けた導管や孔には沢山の空気が入っています。


従来の方法
 クヌギ・コナラ等の原木に穴を空けてシイタケ菌の種駒を打ち込み、菌糸が自然に腐朽するまで空気中に放置した場合、菌糸は材の内部と外部の空気の量を比較して外側の空気の多い場所から空気の少ない材の中心に向かって菌糸を伸ばそうとします。
 菌糸は好気性の微生物なので空気の多い所を好むのは当然のことでしょう。

 つまり、外側の養分が無くなり腐朽してくれば空洞も増え空気の通りも良くなるので、水分の多い中心に向かって十分な空気を吸いながら菌糸を伸ばそうとするのですが、時間の経過と共に養分が無くなるので菌糸の力が衰え、更にほだ木全体が乾燥して堅くなり芯が残る傾向があると考えられます。

 このような状態では、菌糸がリグニンを分解して作り上げた材内部に蓄積される子実体になる成分の量が常に貧弱になってしまう傾向があると思われます。
 従って、ほだ木全体に菌糸を回してから子実体の出る方が有利であると考えられます。



新しい方法
 
ほだ木の外側の空気をビニール袋やラップフィルム等で遮断することにより菌糸は、生命を維持する為に仕方なくほだ木の内部に封じ込められている空気を求めて中心部に向かって蔓延(はびこ)るしか方法が無くなるので、植菌された菌糸は短期間でほだ木の内部全体に一気に蔓延することになります。
 つまり、只単に空気中に放置した場合には、植菌材の表面だけが腐朽して中心部まで蔓延しないこともあるので、外側の空気を遮断して内部に残された空気だけで呼吸させることが秘訣になります。
 又、ほだ木の外側がビニールやラップフィルム等で密閉されているので雑菌の進入を防ぐと同時に蔓延に必要な水分を長期間維持できるので菌糸が充分に回るまで菌糸の活動が衰えません。

 その結果、驚くほど速く、ほだ木に菌糸をまわすことができます。


利点
 ・短期間で、ほだ木全体にキノコの菌糸を蔓延させることができる最も簡単な方法です。
 ・短期間に蔓延させることができるので材の劣化がない。
 ・菌糸がほだ木全体にはびこった後に子実体を作ることになるので、かなり質の良いシイタケが採取できます。
 ・菌糸が作り上げた子実体に成るほだ木内部の成分の備蓄量は遙かに多いことになり、1つ1つの子実体の大きさが改善されるので収穫量もかなり改善することができます。
 ・菌糸の回る期間が短縮されるので、短期間での量産が可能になります。
 ・カワラタケ菌、ヒラタケ菌等の好気性微生物であるキノコ等全般に使用できる簡単で効果のある方法です。


従来の方法と比べて以下の点で格段に優れていると考えられます。
 1.木材腐朽菌の性質を利用しているので、菌糸が材中深く達する時間が短く菌勢が強い。
 2.短期間で材全体に菌糸がはびこるので部分的な劣化がない。
 3.菌糸の培養中に空気中・土中の雑菌・雑虫と接触しないため、目的栽培物の菌糸の純度が高い。
 4.他の微生物と隔離されているので、目的栽培物の菌体や子実体が植菌材に対して、ほぼ100%得られる。
 5.栽培の方法が衛生的なので病虫害にも遭遇しにくい。
 6.方法が簡単で特別な施設を必要としないので設備投資の必要がない。

 以上のことより、目的栽培物の栽培速度・歩留まり・収穫率全ての生産効率が向上する可能性があるので収益の向上を期待できる。